本研究では揮発性高塩素化合物を高度に脱塩素化する偏性嫌気性菌についてその脱ハロゲン呼吸のメカニズムを解明するため、基礎・基盤研究を行うが、本年度はクロロメタン類がDesulfitobacterium hafnienseY51株の生育を阻害する分子メカニズムと未知遺伝子pceTの機能解明を行った。 前年度までに野生株Y51株を酵母エキス、ピルビン酸、フマール酸を含む最小液体培地(MMYPF培地)に接種し、1mMのクロロフォルム(CF)を添加して培養すると生育阻害が起こりlag期が約24h長くなること、また、pce遺伝子クラスターを欠失したLD株が84%と高頻度に出現することを明らかにした。しかし、興味あることにLD株はCFによる生育阻害を受けなかった。一方、トリクロロエテン(TCE)を添加するとCFによる野生株の生育阻害は緩和された。これらの結果とさらなる生化学的・分子生物学的解析からCFは還元的脱ハロゲン酵素であるpceAの補欠分子族であるとコリノイドと結合してフマル酸呼吸の電子伝達系を阻害することが明らかとなり、そのモデルを提唱した。 また、機能不明であったpceTの産物(PceT)はPceAに特異的に働く分子シャペロンであることが判明した。すなわち、PceTはTat輸送を受ける前のPceA前駆体と特異的に結合することが免疫沈降実験により明らかとなった。 偏性嫌気性細菌による脱ハロゲン呼吸の分子機構はまだ、未知なところが多い。今後は、この重要な脱ハロゲン呼吸細菌類における宿主ベクター系の開発、及び脱ハロゲン呼吸に関与する遺伝子の異種発現系の開発が重要である。
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