過去2年間において、以下の重要な知見を得る事ができ、大半を既に論文発表した。 1.ビアコアを用いたRNAポリメラーゼと特定遺伝子のプロモーター領域(約20bp)の親和力測定法を確立し、これにより放線菌の潜在能力発現型の変異RNAポリメラーゼは、特定遺伝子プロモーター領域への親和力が約2倍に増大している事を見い出した。すなわち、変異型RNAポリメラーゼは転写の初発段階で機能していると結論した。rRNA遺伝子のプロモーターに関してみれば、ppGppはこの親和力を低下させており、これがppGppによる緊縮制御(RNA合成抑制に関して)の真因であると結論した。 2.放線菌の巨大蛋白質EshAは、細胞内のppGppレベルを微調整することにより、二次代謝を制御していること、ならびにEshAの活性化にはcAMPが必須である事を明らかにし、ppGppとcAMPという2つの低分子制御物質の連関に成功した。 3.枯草菌の抗生物質ネオトレハロサジアミン(NTD)の生合成は自身のオートレギュレーション(活性化)を受けるという非常に珍しいケースであるが、NTDの本菌における生理的意義がグルコースの細胞内取り込みの調節にある事を明らかにした。抗生物質の生産菌自身における生理的意義を分子生物学レベルで明らかにした最初のものとなった。 4.高温菌Thermus thermophilusのppGppによる緊縮制御のメカニズムを詳細に検討し、その結果、本菌のppGppによるrRNA遺伝子の発現抑制は、ppGppのRNAポリメラーゼへの結合阻害が主原因ではなく、むしろppGppのIMPデヒドロゲナーゼ活性阻害による細胞内GTPレベルの低下が主たる原因である事を明らかにした。これは細胞内GTPレベルの遺伝子発現における重要性を示す重大な知見となった。 5.放線菌の潜在能力はリボゾーム蛋白質S12の特定変異により著しく活性化されるが、原因として、70S粒子の安定化とリボゾームリサイクリング因子(RRF)の過剰発現の2点にある事を明らかにした。
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