近年の糖質酵素の分類は、構造の類似性からなされる。研究対象は、α-グルコシダーゼと相同する酵素グループであり、産業界で重要な酵素が属する。すなわちα-グルコシダーゼ、グルカンリアーゼ、環状4糖合成酵素とα-キシロシダーゼであり、4つの反応(加水分解・糖転移・環状化・脱離反応)を触媒する。本研究の目的は、我々が解析した本グループの立体構造に基づき、多様な反応の分子機構を明らかにし、得られた知見を応用研究に結びつけることにある。具体的には、a)X線解析法で得られた酵素-基質の分子認識を検討し、実験的に基質とアミノ酸の相互作用を調べる。b)触媒アミノ酸の置換酵素の反応を解析し、触媒残基の機能を究明する。c)4酵素は構造が類似するが全く異なる作用を示すので、個々の反応を発揮させる構造因子を解明する。d)得られた知見から産業に重要な酵素を作製する。 本年度の成果を以下に示す。環状化反応の2つ特徴を検証した。すなわち、1)反応中間体への水分子の攻撃が起らずに転移反応が優先、2)基質分子内での転移である。・α-グルコシダーゼの触媒水を立体構造から予測し、触媒水を固定するアミノ酸を置換した。変異酵素は分解能を失い転移活性のみを示し、1)の特徴に対する触媒水の寄与を示す画期的なデータを得た。触媒水の存在部位から転移に関わる触媒アミノ酸の機能を知ることができた。2)の性質について構造因子を解析中である。昨年度に明らかにした細菌α-グルコシダーゼの糖転移作用に関する分子解析の結果を受け、糸状菌酵素のサブサイト+1にあるアミノ酸に着目し変異導入を行った。変異酵素は、加水分解における基質の結合認識のみならず、糖転移の結合生成能を変えた。親酵素になかった新規な転移能力を示す変異酵素が得られ、産業に有用なオリゴ糖の取得に成功した。
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