温帯性植物が低温に曝されて凍結耐性を獲得する過程(低温馴化過程)で特異的な増加がみられる細胞膜タンパク質の機能を凍結傷害発生の初発部位である細胞膜の凍結脱水下における挙動に注目して解明することを目的に研究を行っている。平成18年度は、凍結耐性増大に関係することが既に知られている低温応答性細胞膜タンパク質の一つArabidopsis lipocalin-like protein (AtLCN)に注目し、その細胞膜上での局在性やLipid-Protein Overlay Assay法を用いた細胞膜との物理的相互作用の有無、さらには、リン脂質小胞の凍結融解過程における安定性への影響などを解析した。その結果、AtLCNは細胞膜のスフィンゴ脂質に富んだマイクロドメインの外側に局在することが判明した。また、AtLCNは、Arabidopsisから単離された細胞膜画分とそこから抽出した脂質画分、さらには、細胞膜に微量に存在するホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、そして、ホスファチジル酸と相互作用することが明らかになった。また、これらのAtLCN反応性リン脂質を含む小胞の凍結融解過程における融合を特異的に阻害することも判明した。以上の結果は、AtLCNが細胞膜に存在する酸性リン脂質とおそらく電気的に相互作用し、その結果、細胞膜と他の細胞内膜系が凍結脱水過程で融合するのを防ぎ、細胞が凍結耐性を増加することに貢献していることを示唆している。一方、解析を続けている低温応答性タンパク質Synaptotagmin-like proteinA (AtSytA)は、マイクロドメイン中に特異的に存在していることが明らかになり、低温応答性細胞膜タンパク質の局在や機能は、多様なものがあることが判明した。
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