研究概要 |
本研究では、植物免疫反応を誘導するフラジェリン認識後の情報伝達システムをカルシウムシグナルとリン酸化シグナルの両方から明らかにすることを目的とした。まず、22Kイネオリゴアレイを用いて約300遺伝子がフラジェリン認識の下流で制御されることを明らかにした。これらフラジェリン下流遺伝子を詳細に解析したところ、この多くがその活性発現と発現調節にCa^<2+>を必要とした。さらに、フラジェリン接種によって誘導される活性酸素発生と過敏感細胞死は、Ca^<2+>阻害剤やタンパク質リン酸化阻害剤によって顕著に抑制された。そこで、免疫反応誘導時のイネ細胞内のCa^<2+>動態をyellow cameleon 3.6を用いて調べたところ、非親和性菌株およびそのフラジェリンを接種したイネ培養細胞のみで、数分以内の[Ca^<2+>]cytの顕著な上昇が認められた。フラジェリン下流遺伝子の中には、いくつかのカルシウム依存性プロテインキナーゼ(CPK)をコードする遺伝子が含まれていた。そこで、次にイネに存在する29個のCPKすべての発現パターンを調べたところ、OsCPK, 8, 10, 12, 13, 19が非親和性菌株特異的に発現誘導されることが明らかになった。そこで、フラジェリン下流遺伝子であるOsWRKY70のプロモーターにルシフェラーゼ遺伝子を連結したベクターとそれぞれのOsCPK遺伝子をイネプロトプラストで共発現させたところ、OsCPK8とOsCPK13の過剰発現の場合にのみOsWRKY70の発現が誘導されることが示された。以上の結果から、イネは非親和性菌株のフラジェリンを認識して、ごく早期に細胞内へのCa^<2+>流入を引き起こし、この細胞内[Ca^<2+>]上昇を受けてOsCPK13などのキナーゼが活性化し、タンパク質リン酸化によってイネの各免疫反応が誘導されていることが明らかになった。一方、申請者は本研究期間中に、過敏感細胞死誘導を誘導する転写因子を初めて同定した。この転写因子は、過敏感細胞死誘導時に細胞質から核に急速に移行することが示され、この移行があOsCPKを介したリン酸化によって制御されることが初めて明らかになった。
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