本研究は、生理活性プローブ分子の有機合成を基盤とする新しい視点から、ミトコンドリア複合体-I(NADH-ユビキノン酸化還元酵素)に関する研究を格段に進展させることを目的に、複合体-Iの最強の阻害剤のひとつであるアセトゲニン骨格にさまざまな機能性を組み込んだプローブ分子をデザイン・有機合成することを計画した。17年度においては、下記の2つの研究課題を遂行し、ほぼその目的を達成した。 1)複合体-Iにおけるアセトゲニンの結合サブユニットを光親和性標識実験によって同定するために、光分解性アセトゲニンを有機合成した。光分解性基として光親和性標識で広く用いられているアリールジアジリン環をアセトゲニンのアルキル側鎖末端に導入した。アリールジアジリン環を導入しても阻害活性の低下はわずかなものであることを確認した。さらに、結合サブユニットの同定をウエスタンブロッティングで容易に行うことができるようビオチンを導入することを計画し、ビオチンをクリックケミストリーで導入するための予備的な実験を行った。 2)アセトゲニンの阻害活性発現に極めて重要であることが判明しているアルキルスペーサー部の機能や活性コンフォメーションについての知見を得るために、アルキルスペーサー部にエンイン構造や三重結合を位置特異的に導入し、その柔軟性を低下させた。興味深いことに、スペーサー部のどの位置の柔軟性を低下させても大きな活性の低下は認められなかった。
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