研究概要 |
ATP binding cassette transporter(ABC)G5およびG8は小腸上皮細胞に吸収された植物ステロールおよびコレステロールを細胞外へ排出させることで、これらステロールの吸収を低下させると考えられている。SHRSPラットはABCG5に遺伝的変異があり、体内に植物ステロールが蓄積することから、小腸での植物ステロール排出がうまくいかず、吸収率が高まっていることが考えられた。正常なWKAラットとの比較では、確かにSHRSPラットの植物ステロール吸収率は高かった。ところが、今回の研究で、正常なWistarラットとSHRSPラットとで比較したところ、シトステロールおよびカンペステロールが胸管リンパへ吸収される量に違いはなかった。一方、スティグマステロールおよびシトスタノールでは、両系統ともに吸収率は極めて低かったが、SHRSPラットで吸収率はわずかに高かった。この結果から、WistarおよびSHRSPラットでの植物ステロール吸収の違いは、あるとしても極めて小さく、SHRSPラットの体内への植物ステロール蓄積の原因とはならないという結論を得た。ABCG5,G8は肝臓にも発現しており、肝臓から胆汁へステロールを排出すると考えられている。そこで、WistarとSHRSPラットで胆汁への植物ステロールの排出を比較した。植物ステロール食摂取条件下で、WKAラットとの比較では、SHRSPラットでの胆汁への植物ステロール排出は明らかに低く、体内蓄積の原因と考えられたが、今回、Wistarとの比較では、意外にも、SHRSPラットで胆汁への植物ステロール排出が高いという結果を得た。しかし、この実験では、肝臓への植物ステロールの蓄積が両系統で大きく異なることから、次に、放射性シトステロールを両系統のラットに静注し、胆汁への放射能の排出を調べたところが、胆汁回収1時間でSHRSPラットでシトステロールの排出が低かった。このことから、SHRSPラットの体内への植物ステロールの蓄積は、吸収の違いによるのではなく、胆汁への排出の減少によることが示唆された。
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