研究概要 |
小集団や北陸のブナ林で結実周期が長くなるメカニズムを,物質収支と近交弱勢,虫害からの捕食者飽食の観点から,明らかにしていく。ブナの豊凶のメカニズムを明らかにするために,以下の調査を行った。1.シードトラップによる開花数と落下原因ごとの落下消長。2.開花数・シイナ数・虫害数。3.結実のための投資パターン。2005年は,東北地方から北陸地方にかけて大豊作になった。北陸地方では1995以来の大豊作であった。しかし,関東から中部の太平洋側では,ほとんど開花しなかった。2006年3月に冬芽を調査した結果,これらの地方では2006年に大量の開花予想される。2005年には,秋田県八幡平,石川県白山と能登半島,新潟県苗場で定期的に採集した,殻斗や種子の重量と熱量を測定した。ブナでは6月には健全種子の体積に達する。しかし,熱量を調べると,8月以降に単位重量当たりのカロリーが急激に増加した。ブナの種子害虫は,充実期以前に加害する種がほとんどである。虫害の全体の8割以上を占めるブナヒメシンクイが加害する時期にも,ブナは種子に対してあまり投資をしていないことが明らかにされた。カロリーメーターによる熱量の測定ではサンプルによる測定値のばらつき大きく,物質収支説を検証するための,枝などへの物資の蓄積を検出することはできなかった。カロリーメーターではなく,糖やデンプンの直接的な側定が必要である。そのために,2005年には枝サンプルを採集し,枝の齢によって分別して凍結乾燥した。糖とデンプンの測定は平成18年以降に行う。また,埼玉県秩父で豊作になったイヌブナでも同様の調査を行った。その結果,ブナに比べるとイヌブナでは種子の発育フェノロジーが遅かった。したがって,熱量的に見ると,ブナ以上に充実期に急激に投資を行っているものと考えられた。
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