研究概要 |
東京大学秩父演習林(標高1200m)に生育する,ブナを対象とし,成長錐コア試料を採取し,生育地を代表ずる年輪幅,年輪内平均密度および年輪内最大密度の時系列(クロノロジー)を構築した。各クロノロジーと過去約100年間の月降水量,月平均気温,月日照時間との関係を単相関分析より解析したところ,年輪幅変動には8,9月の降水量や日照が影響を及ぼしていること,年輪内平均密度や年輪内最大密度には,7-9月の気温や日照が影響を及ぼしていた。過去17年間の年輪幅や密度と、堅果量の関係を解析したところ,総堅果数(=開花数)が年輪幅に弱いながらも関係が認められた。デンドロメータ法およびピンマーキング法によって肥大成長期間を観測した結果,本地域におけるブナの肥大成長は5月下旬から9月下旬までであった。一方、これまでの本科研の研究成果から、ブナが種子生産に大きな投資を行うのは、開葉から1カ月の間と、梅雨明けから1カ月の期間であることが明らかにされている。海洋から1カ月の間には、成熟種子に投資する熱量の40%が投資されるが、梅雨明け後の1カ月に残りの60%が投資される。また、東北地方の八甲田山と八幡平で同様に成長錐コア試料を採取下結果では、葉食性昆虫であるブナアオシャチホコの大発生の影響が非常に明確に現れ、当年の8月(失葉)以降、および、翌年に強い負の影響が認められた。したがって,ブナの肥大成長(樹幹への光合成生産物のアロケーション)に対して種子生産量が及ぼす影響は限定的であり,肥大成長はむしろ,成長期間後半の気候条件や、夏に周期的に大発生する葉食性昆虫の大発生により強く影響されていると考えられた。林分中央では端の個体に比べ不健全堅果の割合が低く、これらの不健全堅果はほとんどは中身が空であるシイナ堅果であった。質的花粉制限による不健全堅果の割合が増加する原因として、近交弱勢の発現が不健全堅果の発生する割合を増加させることが考えられる。質的あるいは量的な花粉制限が考えられる。
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