研究概要 |
抵抗性遺伝子群:材線虫感染時に、抵抗性家系のアカマツから、感受性家系に比較して発現量の高い約1600個のcDNAクローン集団をセルソーターにより得た。このクローン群の発現解析に必要なRNAを要事に必要量調達するため、播種3年目のアカマツ家系の実生苗約1000個体を整備するとともに、RNAの調製系を再度検討・微修正した。今後、得られたクローンの塩基配列決定を行うと同時に、確立できた試料調達・RNA調製系を利用して、各クローンの発現を解析する。 殺材線虫活性物質:ピノシルビンモノメチルエーテルは殺材線虫活性を持つ。これを制御すると予想された複数のメチル化酵素遺伝子を大腸菌で発現解析した。大腸菌中に生成した翻訳産物は可溶性で単一バンドに精製した。アミノ酸部分配列やTOF-MS分析により、間違いなくメチル化酵素のアミノ酸配列を持つと考えられた。しかし、活性は検出できず、TOF-MS分析で検出できない修飾や高次構造変化が推定される。一方、我が国のマツでは報告例のない複数のピニジン類のGC-MS検出に成功した。殺線虫活性の予測されるこのアルカロイドはアカマツ苗条に検出された。 抵抗性に関与する組織学的因子:線虫接種の5日後,接種点から5〜10cm下の木部で,抵抗性アカマツ個体の線虫密度は非選抜個体より低い値を示した。皮層内の線虫密度は,抵抗性個体で高い値を示す例と,非選抜個体と同程度の場合があり,一定の傾向は見られなかった。この結果から,感染初期の抵抗システムには,木部の寄与が大きいのではないかと推測された。また,線虫が移動経路とする樹脂道のサイズや分布数は個体により変異が認められた。抵抗性発現機構には複数の遺伝子が関与するものと推測される。まだ供試試料が少ないため,マツの枝組織内における線虫の移動阻害には樹脂道の構造のような物理的要因が寄与しているのかどうか明らかではなく,さらに検討が必要である。
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