ノルリグナンの一つであるアガサレジノールの生合成経路を投与法によって検討した。まず、特定の化学構造位置が安定同位体(^<13>C)標識された4種類のケイ皮酸(芳香核、側鎖7位、8位、9位標識)を有機合成した。これをスギ小木片に投与し、その後高湿度条件下で代謝させた。木片の抽出物をガスクロマトグラフィー/質量分析した結果、木片中に生成したアガサレジノールの質量数が増加し、ケイ皮酸がアガサレジノールの前駆物質となることが示された。さらに、各種ケイ皮酸を投与した木片からアガサレジノールを単離し、これを核磁気共鳴スペクトル分析した結果、アガサレジノール構造中の特定の炭素原子が強調されて検出され、ケイ皮酸のアガサレジノールへの組み込み様式が決定された。すなわち、アガサレジノールの全炭素原子は2分子のケイ皮酸(炭素数:9)に由来し、アガサレジノール側鎖1および3位炭素はケイ皮酸側鎖7位炭素に、アガサレジノール側鎖2、4位はケイ皮酸側鎖8位、アガサレジノール側鎖5位はケイ皮酸側鎖9位にそれぞれ由来することが確認され、アガサレジノール炭素骨格(炭素数:17)が形成されるとき、一つのケイ皮酸の9位炭素原子が脱離することが証明された。 樹木木部が酵素学実験に利用できるかどうかについて検討した。まず、スギ木部を辺材、移行材および心材に分画し、各部分を凍結粉砕した。凍結木粉を緩衝液中でさらに磨砕し、得られた懸濁液から超遠心分離沈殿物、塩析物を回収した。これらはタンパク質反応陽性を示し、膜結合性タンパク質および可溶性タンパク質を得ることができた。可溶性タンパク質画分中にフェニルアラニンアンモニアリアーゼ活性を確認し、この活性の木部各部分中での強・弱がノルリグナン量の多・少と対応していることが示された。以上のように、凍結木粉は樹木酵素実験を可能とし、今後、ノルリグナン生合成関連酵素活性の検出に取り組む。
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