・アガサレジノールとヒノキレジノールの生合成上の関連 ノルリグナンの一つであるアガサレジノールの生合成経路を投与法によって検討した。まず、側鎖9位の化学構造位置が安定同位体(^2Hあるいは^<18>O)標識されたp-クマリルアルコールを有機合成した。これをスギ小木片に投与し、その後高湿度条件下で代謝させた。木片からの抽出物をガスクロマトグラフィー/質量(GC/MS)分析した結果、木片中に生成したヒノキレジノールの質量電荷比は増加したがアガサレジノールの質量電荷比は増加しなかった。以上の結果から、ヒノキレジノールはp-クマリルアルコールを前駆物質として生合成されるが、一方アガサレジノール生合成ではp-クマリルアルコールを経由しないことが示された。したがって、アガサレジノールとヒノキレジノールは構造類似体ではあるが、「これらの生合成はそのノルリグナン基本骨格が形成される前に分岐する」という生合成経路を提唱した。 ・アガサレジノールとセクイリンCの生合成上の関連 セクイリンC(アガサレジノールの1水酸化物)がアガサレジノールの生合成前駆物質である可能性を酵素実験によって検討した。まず、スギ木部を辺材、移行材および心材の各部分のノルリグナンを定量した結果、移行材の特に心材寄りにおいてセクイリンCの含有量が多いことが分かった。この部分の凍結木粉を調製し、緩衝液抽出、超遠心分離などの一連の手順に従って膜タンパク質画分(超遠心沈殿物)を得た。この画分(粗酵素)、アガサレジノール(基質)およびNADH(補酵素)を混合し、酵素反応物をGC/MS分析した結果、セクイリンCの生成が確認された。この結果から、スギ移行材においてアガサレジノールを水酸化してセクイリンCを産する酵素の存在が示された。したがって、ノルリグナン間の転換が酵素実験的に初めて証明され、また移行材がスギ心材ノルリグナンの生合成に関与しているが示された。
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