1.ノルリグナンの一つであるアガサレジノールの生合成経路を投与法によって検討した。まず、側鎖9位の化学構造位置が^2H標識されたp-クマリルアルコールを有機合成し、これをスギ小木片に投与、その後高湿度条件下で代謝させた。木片からの抽出物をガスクロマトグラフィー/質量(GC/MS)分析した結果、木片中に生成したヒノキレジノールの質量電荷比は増加したがアガサレジノールの質量電荷比は増加しなかった。以上の結果から、ヒノキレジノールはp-クマリルアルコールを前駆物質として生合成されるが、一方アガサレジノール生合成ではp-クマリルアルコールを経由しないことが示された。したがって、アガサレジノールとヒノキレジノールは構造類似体ではあるが、「これらの生合成はノルリグナン基本骨格が形成される前に分岐する」という生合成経路を提唱した。 2.アガサレジノールとセクイリンC・メタセクイリンC(両物質ともアガサレジノールの1水酸化物)との生合成上の関連を酵素実験によって検討した。スギ木部を辺材、移行材および心材の各部分のノルリグナンを定量した結果、移行材の特に心材寄りにおいてセクイリンCの含有量が多いことが分かった。そこで、この部分から超遠心分離によって膜タンパク質画分を調製し、本画分を(粗)酵素、アガサレジノールを基質として補因子の種類・温度・pHを変え、反応させた。反応物をGC/MS分析した結果、セクイリンCおよびメタセクイリンCの生成が確認され、さらに生成量が補因子NAD(P)H+FAD、pH7、温度30℃において多いことが分かった。よって、アガサレジノールを水酸化してセクイリンC・メタセクイリンCを産する酵素アガサレジノールヒドロキシラーゼの存在を見出し、ノルリグナン間の転換が酵素実験的に初めて証明された。 ノルリグナン生合成研究は他の植物二次代謝物の場合と比較して遅れており、今回の成果は植物基礎科学の充実に貢献した。
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