研究概要 |
本研究はアユやウナギなどの回遊性魚類について耳石の微量元素組成や安定同位体比から母川を含む回遊履歴、さらに回遊履歴に基づく集団形成過程の解明を目的とする。本年度はレーザーアビュレーションICP質量分析法(LA-ICPMS)を用いた耳石の多元素分析手法の確立、および二次元高分解能二次イオン質量分析法(Nano-SIMS)による耳石のSr同位体比分析(87Sr/86Sr)の可能性を検討した。 1.LA-ICPMS分析:アユの耳石を用いて分析手法を検討した。その結果、30μmの領域でSr,Mg,Zn,Fe,B,Pb,Liなどの元素を高い精度で分析することが可能になった。三陸地域の複数河川で採集されたアユの耳石を分析した結果、生息河川間でMgとFeの濃度に有意な違いがみられ、母川判別の指標として有効である可能性が示唆された。 2.Nano-SIMS分析:シラスウナギの耳石を用いてSr同位体比の分析手法を検討した。その結果、ビーム径5μmで2‰の精度で分析が可能になった。すなわち、河川間あるいは水域間の同位体比の違いが2‰以上の場合にはその違いが判別可能ということになる。 3.河川水のSr同位体比:三陸沿岸3河川と伊勢湾流入3河川のSr同位体比を表面電離型質量分析法で調べた。それぞれの地域での同位体比は0.706166〜0.708195および0.713431〜0.708945の範囲でSr同位体比から生息河川の違いが判別可能であることが示唆された。 4.アユの回遊履歴と生活史特性:宮川(三重県)や淀川(大阪府)を遡上したアユの耳石日周輪紋とSr:Ca比の成長に伴う変化を調べた。その結果、早期孵化個体群が早期に大型で遡上し、遡上後の成長率も高いことが明らかになった。淀川においては海域で死滅すると考えられていた湖産アユに由来する仔魚が生き残って遡上していることが新知見として得られた。
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