研究概要 |
耳石の微量元素組成や安定同位体比からアユやカラフトマスの母川判別と回遊機構や集団構造の解明を試みた。1.アユの母川判別および回遊機構:伊勢湾流入3河川と三陸沿岸1河川のアユを材料とした。耳石のSr同位体比(^<87Sr>/^<86Sr>)が生息河川水の比と一致し,母川判別の有効な指標であることが明らかになった。上記4河川のアユについて耳石の核部分と縁辺部のSr同位体比をNanoSIMS(二次元高分解能二次イオン質量分析装置)を用いて分析し,両者の比較から母川回帰の有無を検討した。その結果,母川回帰個体は調査個体の24%のみであり,遡上個体群に占める母川回帰個体の割合は河川により異なり0〜50%であった。アユの母川回帰は仔魚期における河口域の海洋構造に影響される初期分散に関係し,生物特性としての母川回帰性はないものと考えられた。本研究成果はアユ資源の増殖,保全を考える上で極めて重要である。2.カラフトマスの降海直後の分布特性:カラフトマスの耳石の酸素,炭素安定同位体比が孵化場放流魚と野生魚の間で異なり,それに基づく両者の判別が可能であることが明らかになった。また,孵化場魚を用いて耳石輪紋形成の日周性を検討し,日周輪紋であることを証明した。これよりカラフトマス孵化場放流魚,野生魚の降海直後の分布,成長に関する研究が可能になった。3.カラフトマス回帰個体の由来判別:回帰個体の耳石核部分の酸素,炭素安定同位体比をマイクロドリリングー質量分析法により分析し,孵化場放流魚と野生魚の判別を試みた。標識放流魚の分析結果は必ずしも孵化場魚の分析結果と一致せず,その要因としてマイクロドリリングによる分析試料採取における海域生活部分の混入,年度の違いによる飼育環境や飼育水の同位体比の違いなどが考えられた。今後,マイクロドリリング法を改善しながら,さらに検討していく必要性が示された。
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