研究概要 |
水圏に生息する魚類では,体表を介して外界と体内との間で各種のイオンが濃度勾配に従って移動する。海水中では体内に過剰となる塩類を鰓の塩類細胞から排出するが、従来から提唱されている海水型塩類細胞のイオン輸送モデルは主に3つのイオン輸送タンパク質から構成される。側底膜に局在するNa^+/K^+-ATPaseは細胞内のNa^+を体内側に排出すると同時に,細胞内の電荷を負にすることでイオン輸送の駆動力を供給する。細胞内と体内側に生じたNa^+の濃度勾配に従い,側底膜にあるNa^+/K^+/2Cl^- cotransporter(NKCC)を介してNa^+,K^+およびCl^-が細胞内に取り込まれる。Cl^-は細胞内と体外の電荷勾配により,頂端膜に発現するCFTR Cl^- channel(CTFR)を通って体外に出される。一方,いったん体内側に輸送されたNa^+は,塩類細胞とアクセサリー細胞の間に形成される細胞間隙から排出される。これらのイオン輸送タンパク質の細胞内局在から,卵黄嚢上皮の塩類細胞は4つのタイプ(1〜4型)に分類された。このうち4型の塩類細胞は,海水型モデルと完全に一致する海水型塩類細胞である。3型は頂端膜にCFTRを欠くことを除けば4型と同じイオン輸送タンパク質の局在を示すことから,このタイプは機能を停止した海水型塩類細胞と考えられる。一方,頂端膜にNKCCが見られる2型の細胞はイオンを取り込む淡水型,またNa^+/K^+-ATPaseだけが発現している1型は未熟な塩類細胞と推察される。胚期ティラピアの卓越した広塩性は,環境塩分濃度の変化を察知して未熟塩類細胞(1型)が機能的細胞(2〜4型)に分化し,あるいは塩類細胞のイオン輸送能が可逆的に変化することに起因する。特に,機能を停止した海水型である3型が淡水中の魚でも存在し,海水移行に伴い速やかに機能的な海水型(4型)に変化することで,胚期ティラピアは急激な環境変化にも対応できると考えられる。
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