胚期ティラピアの卵黄嚢上皮に存在する塩類細胞における各種イオン輸送タンパク質の細胞内局在を調べた結果、機能の異なる4つのタイプ(1〜4型)に分類された。このうち4型の塩類細胞は、海水型モデルと完全に一致する海水型塩類細胞である。3型は頂端膜にCFTRを欠くことを除けば4型と同じイオン輸送タンパク質の局在を示すことから、このタイプは機能を停止した海水型塩類細胞と考えられる。一方、頂端膜にNKCCが見られる2型の細胞はイオンを取り込む淡水型、またNa^+/K^+-ATPaseだけが発現している1型は未熟な塩類細胞と推察される。胚期ティラピアの卓越した広塩性は、環境塩分濃度の変化を察知して未熟塩類細胞(1型)が機能的細胞(2〜4型)に分化し、あるいは塩類細胞のイオン輸送能が可逆的に変化することに起因する。特に、機能を停止した海水型である3型が淡水中の魚でも存在し、海水移行に伴い速やかに機能的な海水型(4型)に変化することで、胚期ティラピアは急激な環境変化にも対応できると考えられる。次に塩類細胞で発現していると推定されるfoxi3について、ティラピア(Oreochromis mossambicus)を用いてcDNAクローニングを行い、その同定に成功した。またin situ hybridization法により、鯛においてFoxI3が塩類細胞で発現することが示された。Foxファミリー分子群は細胞の分化や増殖に関与する転写因子であることから、ティラピアにおいてFoxI3は塩類細胞の分化に関与している可能性が高い。今後、FoxI3の機能を詳細に解析し、またマーカーとして未分化塩類細胞の検出に用いることで、塩類細胞の分化過程に関する理解が飛躍的に深まることが期待される。
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