研究概要 |
本年度においては、主にウナギ(Anguilla japonica)の嗅覚受容と嗅覚行動の特性を明らかにするための実験を行なった。嗅覚応答測定用としては養殖業者から購入した魚を、行動実験には野生魚をそれぞれ雌雄の別なく用いた。嗅覚応答としては、露出させた嗅房上から常法に従いElectro-olfactogram(EOG)を記録した。ニオイとして、L-アミノ酸22種(Arg,Gly,Pro,Lys,Ser,His,Cys,Thr,Ile,Leu,Phe,Met,Trp,Tyr,Val,Asp,Glu,Asn,Gln,Ala)およびタウリン(Tau)、ベタイン(Bet)を用いた。行動実験では、Cys, Betおよびウナギ捕獲時に餌として用いたマハゼと市販の金魚の体表粘液をニオイ刺激とした。行動観察用の水槽として、塩ビ製チェンバー中にウナギが一定方向を向いて落ち着くための塩ビパイプを固定したものを用いた。暗黒下において飼育水を常時潅流させながら魚頭部に対してニオイ刺激溶液をパルスとして与え、その前後の挙動を水中CCDカメラ(赤外線照射型)で記録した。EOG測定の結果、Bet,Cys,Asp刺激は、他の刺激と比較して3倍以上の大きさのEOGを発現させることがわかった。このような特徴は他魚種では見られない。EOGの相対的な大きさとアミノ酸側鎖の性質との間には明確な相関は見られなかった。また、アミノ酸応答閾値濃度は10^<-8>-10^<-5>Mの間にあり、他魚種同様敏感に受容することがわかった。行動実験の結果、金魚、ハゼのニオイ刺激に対しては明らかに活動度が上昇した。他のニオイよりも大きなEOGを発現させたCysとBetの刺激に対しては、Bet刺激時のみ活動度がやや上昇した。これは、大きなEOGを発現させるニオイ物質が、単独の刺激では明確な摂餌促進効果を持つものではないことを示している。
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