研究概要 |
昨年度までの研究の過程で、高度嗅覚魚の匂い受容および処理機構に関する生理学・行動学的研究を進めるためには、ある程度古典的な手法も用いて組織学的観察を徹底的に行う必要があることが明らかになった。そこで、本年度は、特にサメ類とウナギを用いて、主に嗅球の組織学的観察を行った。観察の手法としては、主に鍍銀法(ボディアン染色石川変法)および蛍光色素法(カルボシアニン系蛍光色素,DiIおよび4-Di-10-AsP;水溶性蛍光色素,FM1-43およびFM4-64)を用いた。試魚として、ドチザメ(Sphyma zygaena)、シロシュモクザメ(Syhyna zygaella)他の板鯉類計7種、およびウナギ(AngHflla japollfca)他のウナギ目3種を用いた。観察には、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡または共焦点レーザー顕微鏡を用いた。シロシュモクザメ、アカエイ、ユメザメでは様々な長さの樹状突起を持つ嗅細胞が見られたが、ドチザメでは比較的細胞体が大きく樹状突起が短いほぼ同じ形状の嗅細胞が同じ層に密に並んでいた。また、板鯉類の嗅球糸球体構造は硬骨魚類よりもきわめて明瞭であり、その数も格段に多いことがわかった。このことは、嗅上皮上にきわめて多くの嗅細胞が存在することとも符合し、板鯉類の嗅球における匂い情報の受容・処理機能が、硬骨魚類よりも発達していることを示唆する。また、同じ板鱒類でも種によって糸球体の分布様式が大きく異なることも明らかになった。一方、ウナギ目魚類の糸球体数は板鯉類に比べ格段に少なく、分布もランダムであり層状をなしていなかった。しかし、ウナギ目魚類は硬骨魚類の中では多くの嗅細胞を持つ種と考えられており、板鯉類との嗅球構造の違いがどのような処理機構の違いを反映したものであるかを今後調べる予定である。さらに、板鯉類、ウナギ目魚類の両種においてFM1-43を用いた匂い応答強度に依存した染色が可能であることがわかった。FM4-64は、FM1よりも脂溶性が高いこともあり定量性に問題があると思われた。
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