研究概要 |
今年度においては,板鯉類・ウナギ目魚類およびサケマス類の嗅覚について主に以下の研究を行なった。<板鯉類の嗅覚>板鯉類4種を用い,DiI,4-Di-10-ASPの局所投与と鍍銀法(石川変法)を用いて嗅上皮-嗅球間の神経走行を観察した。シビレエイでは嗅球内側・外側とその間の3つの部位で大きな糸球体群を形成していることが確認された。ホシザメは嗅球内側・外側で糸球体群が分かれており,それぞれに明瞭な層構造が確認された。アカエイ・シビレエイ・ホシザメの嗅球内側に挿入した4-Di-10-ASPは嗅房内側の嗅上皮へ,嗅球外側に挿入したDiIは嗅房外側の嗅上皮へ拡散していた。シロシュモクザメでは,色素投与部位周辺の糸球体に隣接する嗅房の嗅神経のみが染色された。すなわち,嗅細胞は最短距離で到達する糸球体にのみ軸索を投射していると考えられた。<ウナギ目魚類>ウナギ目10種を用い同様の観察を行った。ウナギ目魚類は大きな嗅房を持ち,ホラアナゴの嗅板表面には他の9種では見られないしわ状構造が見られた。嗅球連続切片を三次元的に再構築して観察したところ,糸球体は前部付近に多く分布しており,嗅球外側では後部まで連続して分布していた。種による大きな違いは見られず,糸球体数は少なかった。ウナギ目魚類はある程度限られた匂い物質を高感度に受容・識別している可能性が考えられた。また,ウナギ終脳前部腹側において,嗅球前部外側に挿入したDiIによって染色された細胞体群が確認された。<サケマス類の嗅覚>FM1-43FXを用い,ニジマスとアマゴをモデルとして嗅覚情報処理・記憶形成の場の特定を試みた。その結果,脳脊髄液を3μM FM1-43FXを含む人工脳脊髄液で置換することで嗅球,終脳内中心部の細胞間隙までFM1-43FXが浸透することが確かめられ,異なる匂い刺激によって終脳の異なる部位の神経群がFM1-43FXを取り込むことがわかった。本法により簡便に嗅覚情報の処理・記憶形成の場を特定することができる可能性が示された。
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