研究概要 |
本研究では、魚類に存在するレクチンの分子家系(ファミリー)を統合的に解析し,これらレクチンの生体防御機構などにおける生物機能の解明に資することを目的にして以下の研究成果を得た。加速進化による機能獲得仮説を基に,マアナゴ・ガレクチン(Con1, Con2)の祖先型変異体を設計・作成し,耐熱性や糖鎖ライブラリーとの相互作用を詳細に検討して構造安定性や糖鎖結合特異性に関与する構造要素を特定した。水産甲殻類フジツボのマルチプル・レクチン(BRA1, BRA2, BRA3)の糖鎖結合特異性をフロンタルアフィニティークロマトグラフィーで精密解析するとともに,カルシウム塩結晶化調節作用を解析して生石灰化におけるレクチンの機能特性を明らかにした。複数の魚種の卵から新規の動物レクチンファミリーであるラムノース結合特異性レクチン(RBL)を単離し,糖鎖結合特異性や1次構造などの生化学的特性を明らかにした。とくに本研究では,RBL糖鎖認識結合ドメインに存在する4本のSS結合ループ構造を決定した。RBLの生物機能をニジマス由来の培養細胞である繊維芽細胞(RTG-2)及び腹腔内マクロファージ細胞(RTM5)を用いて調べた。RBLは細胞表面の糖脂質糖鎖Gb3に特異的に結合して炎症性サイトカイン遺伝子の発現を誘導することをRT-PCRにより明らかにした。また, RBLを予めマイクロビーズに固定化するとRTM-5のビーズに対する貪食能が高まり,同時に細胞内では活性酸素の産生能の増強がみられることを明らかにした。これらの結果は,RBLが異物除去を促進し,さらに炎症性サイトカインの発現を増加させることにより生体防御機構に関与していることを示す。さらに,RBLのオプソニン活性は細胞表面糖鎖Gb3を介して行われることを証明した。一方,RBLの活性酸素産生能はリガンド糖では阻害されず, RBL分子には糖鎖認識結合ドメイン以外にも細胞の活性化に関わる部位が存在することを明らかにした。
|