ネパールを中心に農民灌漑組織の設立経緯と水利施設の維持管理について農村調査を実施した。調査対象は、ネパールのカブレ地域のライヤレ・バカレルディヒ・コミュニティ水利組合とネパール・ビシ・ノウビシェ水利組合である。前者は農家戸数400戸、受益面積は90haである。この水利組合の設立は、1995年に水源に近い上流部に農地をもつ農家約6戸によって水路の建設に着手したことが契機となっていた。この水利組合は新たに水源を開発したのではなく、既存の水利組合との交渉の末、既存水利組合の水路の末端からさらに水路を延長したものであった。その後、ネパールのDIO(地方灌漑事務所)からの援助を得てアクアダクト、スーパーパッセージなどの水利施設が建設し現在の水利組合が発足した。水路の長さは約8kmで、受益地は下流部に位置する。一方、後者のネパール・ビシ・ノウビシェの水利施設は国会議員主導の下で建設された。農家戸数250戸、受益面積150haである。この水利組合の水源は受益地から約7km離れた地点の上流部に位置している。新たに水源を開発している。水利施設はDIOの援助で建設され、2003年に農民に移管された。こうした両水利組合の歴史的経緯をふまえた上で、水利費の負担、水配分および水路の維持管理のルールついて調査した。両水利組合とも(1)水利用、(2)水利費、(3)水路の維持管理、に関して明確なルール形成されていた。さらに、水利費は作付作物によって異なっていた点が注目される。水利施設の維持管理に関しても、農民同士の協力関係が維持されていた。灌漑の効果は、ネパール・ビシ・ノウビシェ水利組合において顕著であり「米-小麦」から「米-馬鈴薯」へと作付体系が変化したことが明らかになった。一方、ライヤレ・バカレルディヒ・コミュニティ水利組合においては、水路建設以前に比較して多少の効果は認められるものの、上流部と比較すればその効果は小さかった。
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