研究課題
基盤研究(B)
南アジア農業では灌漑施設への投資は「緑の革命」のみならず、換金作物を栽培するために不可欠である。本研究の目的は、灌漑用水路などの地域公共財の供給メカニズムを実証的に明らかにすることである。ネパール、バングラデシュ、比較分析のためにラオスを含め、現地農村調査を実施した。ネパールの二つの水利システムは農民の共同作業を促進する制度の形成条件の典型を示している。カトマンズ盆地にあるサリナディ灌漑区は農民管理組織が機能していない。彼らは収益性の高い夏馬鈴薯を乾季に灌漑栽培している。夏馬鈴薯の収量差は、上流下流間で統計的に有意な差を確認できなかった。この場合、夏馬鈴薯の栽培農家間で水配分を定めるルールをつくるインセンティヴは働きにくい。また灌漑溝の維持管理活動において上下流農家が共同する必要性はない。一方、ビシ・ノウビシェ水利組合では灌漑用水の利用ルールが定められている。この水利組合では各圃場への取水口に鍵をかけているため、農民が自分勝手に水を利用できない点がユニークである。上流ではコメ-夏イモ-夏イモの作付けが多く、下流では水不足のためにコメ-休閑-夏イモの作付けが多い。前者はより収益性が高い。すなわち、水資源が稀少である場合、水配分や水利施設の維持管理に関するルールがよく守られている。この理由として、ほぼ全農家が取水口の鍵の効用をあげていた。鍵の効果は、そればかりでなく組合員相互の信頼関係の構築にも寄与していた。ほぼ8割の農家は適度の水量を確保できており、6割の農家が適宜に水を利用できていた。現地調査の結果は、水利資本ストックの維持管理を担う水利組織の形成について、農民の経済的な誘因の違いが、維持管理行動に多様性を生んでいることを示した。
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