本年度は最終年度であげ、本研究全体の課題ついて全体討論を行い、最終報告のまとめを行った。その内容は日本農業経済学会の特別セッションで報告した。概要は以下の通りである。 第一に、戦後1970年代まで農村で実施された構造改善事業等各種農業施策は、農業集落を基盤に実施組織が形成された。従ってそれらは農業集落の共同性を維持し、農家の兼業化と農業集落の混住化にともなう変質を防止する機能を持った。 しかし第二に、1980年代以降に実施されたほ場整備事業は、求められる地域農業の「担い手像」が少数精製の法人組織へと転換させ、町村等農業団体の事業により育成された。この事業は、農業集落の共同性にとり強い分解作用を持ち、自治村落的共同性を希薄にした。 この結果第三に、自治村落が本来備えていた生産の共同性はほぼ崩壊し、残っているのはわずかに「土地所有者」としての共同性にすぎない。それは稲作の生産調整にともなう「とも補償」や「土地利用調整」に機能しているに過ぎないことが明らかとなった。 第四に、農産物直売所など新しい農村の事業は、新たな共同性を求めて当初から自治村落の範囲を越えたネットワーク型組織を形成している。この組織の参加者特に女性は、農家家族規範の変化を背景としている。しかしその共同性は、これまでとは異なったいわば「目的志向型」の共同性であり、自治村落的共同性のような安定的な関係を形成することは困難であろう。 第五に、ヨーロッパのように多様な住民で更生されている農村社会では、自らが利害を調整し事業を展開するという関係が行政等の組織を支えている。 上記のように構成員が多様化した農村社会にとり行政等農業団体は、今後多様化した構成員相互の関係の調整やその組織化など、これまで自治村落が持っていた機能にまで拡張する事が求められるであろう。地域農業と健全な豊村社会の維持は、農業団体の新たな展開にかかっているであろう。
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