本研究は、イネの穂分化に作用する感温メカニズムを解明し、変動気象下での発育反応の的確な評価に役立てることを目的とする。本年度は、生長点感温性と地上部感温性を分離し、地上部感温性の発現開始期を探索した。温度勾配チャンバーの高気温区(出芽から90日間平均:21.3℃)、低気温区(同:16.0℃)に、高水温(21.5℃)と低水温(18.5℃)の恒温水槽を設けた。水稲(品種:あきたこまち)をポット栽培し、出芽から幼穂形成期までの期間、その生長点が水中に浸るよう、ポットを水槽に沈めた。この処理により、地上部(葉身と葉鞘の大半)が気温の作用を、また生長点が水温の作用を受ける。出芽後17日目から高水温区では10日間隔、低水温区では12日間隔で、各区2ポットを高気温区から低気温区あるいは低気温区から高気温区へ順次移動した。この気温間移動に伴う幼穂形成期の変動を観測した。 気温・水温の処理(含:気温間移動)にかかわらず、葉齢は水温の有効積算温度で統一的に説明できた。一方、同一水温で葉齢進度が同じであっても気温により幼穂形成期が変動した。このことから一定の葉齢に達するまでの期間(基本栄養生長相)は水温すなわち生長点温度に支配され、その後は地上部温度に支配されるモデルを想定した。葉齢が6葉以前の気温間移動は、幼穂形成期に大きな変化をもたらさないが、それ以降の気温間移動で幼穂形成期に変動が現れた。このことから品種「あきたこまち」では、6-7葉期が地上部感温性の発現開始期と推定した。 上とは別に、地上部の上から2/3程度を不織布で覆い、作物体温を上昇させる実験でも、一様に幼穂形成期の前進が認められたことから、イネ体上部に感温部位があると推定した。 次年度から計画する感光性と感温性の関係解明で、「あきたこまち」と比較対照に使用する品種として、「きらら397」、「コシヒカリ」、「ひとめぼれ」などを候補に選定した。
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