研究概要 |
本研究は、イネの穂分化に作用する感温メカニズムを解明し、変動気象下での発育反応の的確な評価に役立てることを目的とする。本年度は18年度に引き続き、1)地上部感温性と日長感応性の関係、2)生長点感温性の発現時期、3)地上部感温性の感応部位について解析するとともに、3年間の結果をとりまとめて、穂分化における感温性の仕組みを明らかにした。実験系は18年度と同様、日長、気温、水温,作期の4処理,各2水準である。供試品種は、あきたこまち、ひとめぼれ、コシヒカリ、きらら397である。 明らかになった穂分化の仕組みは以下の通りである。 1.葉齢の展開速度は10葉前後まで、水温(生長点温度)に支配され、気温(地上部温度)や日長の影響を受けない。 2.7葉期前後まで日長ならびに気温にも感応しない。このことから生長点に穂分化シグナルの受容体が形成される時期は7葉期と推定され、受容体形成までの期間(従来の基本栄養生長相に相当)の長短は水温で決まる。 3.限界日長以下の短日条件であれば、受容体形成とともに速やかに穂が分化し、気温の影響は受けない。 4.これに対して長日条件下では、受容体が形成されても直ちには穂が分化しない。しかし長日であっても、高気温により穂分化が促進され、一部の品種を除いて24時間日長でも穂が分化する。 5.従って、短日下では気温(地上部温度)は作用せず、長日下でその作用が現れる。 6.気温感応部位は、葉身であり、葉鞘ではない。 7.北東北におけるあきたこまちの通常作期(7〜9葉期に長日)の場合、出芽から幼穂形成期までの日数に及ぼす水温影響は約4.3日/℃、気温影響は約1.5日/℃であり、水温影響が3倍大きい。 以上の成果は、温暖化に適応する品種を育成するためには、南北の日長の違いを考慮する必要性を強く示唆する。また水管理による発育制御、発育予測精度の向上にも貢献する。
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