本研究は、イネの穂分化に作用する感温メカニズムを解明し、変動気象下での発育反応の的確な評価に役立てることを目的とする。日長、気温、水温を制御した実験系で処理間相互のサンプル移動を実施し、幼穂形成期の変動を観測した。この結果から、イネの穂分化における感温性の仕組みを明らかにした。 1.葉齢の展開速度は10葉前後まで、水温に支配され、気温や日長の影響を受けない。 2.幼穂形成は、7葉期前後までの日長や気温の作用を受けない。このことから成長点に穂分化シグナルの受容体が形成される時間は7葉期と推定され、受容体形成までの期間(従来の基本栄養成長相に相当)の長短は水温(成長点温度)で決まる。 3.限界日長以下の短日条件であれば、受容体形成とともに速やかに穂が分化し、気温の作用は受けない。 4.これに対して長日条件下では、受容体が形成されても直ちには穂が分化しない。しかし長日であっても、高気温により穂分化が促進され、一部の品種を除いて24時間日長でも穂が分化する。 5.従って、短日下では気温(地上部温度)は作用せず、長日下でその作用が現れる。 6.気温感応部位は、主として葉身であり、葉鞘の感応は明確ではない。 7.北東北におけるあきたこまちの通常作期(7〜9葉期に長日)の場合、出芽から幼穂形成期までの日数に及ぼす水温影響は約4.3日/℃、気温影響は約1.5日/℃であり、水温影響が約3倍大きい。 以上の成果は、温暖化に適応する品種を育成するためには、南北の日長の違いを考慮する必要性を強く示唆する。また水管理による発育制御、発育予測精度の向上にも貢献する。
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