宮城県の仙台食肉公社において採取した黒毛和種牛149頭の胸最長筋を用いて、ウシ成長ホルモン(GH)遺伝子多型と脂肪酸組成をAMS-PCR法およびガスクロマトグラフィー法により、それぞれ解析した。枝肉形質に関するデータは仙台食肉公社からの提供データを利用した。それらの解析結果は、以下の通りであった。 1.宮城県におけるGH遺伝子多型であるAA、AB、BB、AC、BC、CC型は、それぞれ45.6、15.4、20.8、5.4、11.4および1.3%であった。A、B、C型の遺伝子で分類すると、それぞれ56.0、34.2および9.7%となり、A型が有意であった。この様な傾向は、鳥取県でも報告されている。しかし、C型が最多である兵庫、岡山および島根県とは大きく異なっており、地域性が認められた。この原因として、各県で飼養している種雄牛の遺伝子型に大きく依存する可能性が考えられた。 2.遺伝子多型と枝肉成績の相関を解析すると、"ばらの厚さ"に関してはA型が、A型以外の型と比較して、有意に厚かった。しかし、"歩留基準値"、"枝肉重量"、"ロース芯面積"、"皮下脂肪の厚さ"および"BMS"には、遺伝子多型の影響は認められなかった。この結果は、A型遺伝子が、若齢期の体重および枝肉形質、特に'"ばらの厚さ"に関しては優位に作用していることを示唆している。 3.遺伝子多型と胸最長筋中の脂肪酸組成との相関性を解析すると、C型は、それ以外の型と比較して、飽和脂肪酸濃度は低いが、不飽和脂肪酸濃度は有意に高かった。すなわち、C型のステアリン酸濃度では12.3%(C型以外では13.5%)、全飽和脂肪酸濃度では37.3%(C型以外では39.2%)と、C型以外の遺伝子型と比較して低値であった。一方、オレイン酸濃度では56.5%(C型以外では54.9%)、一価の不飽和脂肪酸濃度では60.4%(C型以外では58.5%)、全不飽和脂肪酸濃度では62.7%(C型以外では60.8%)であった。この結果は、C型遺伝子は、若齢期の体重増加にとって不利ではあるが、肉質、特に不飽和脂肪酸組成に関しては有意に作用していることを示唆している。不飽和脂肪酸組成の増大は、食肉の柔らかさとおいしさを増大すると考えられる。 以上のように、宮城県におけるGH遺伝子多型は、枝肉形質や組成に有意な統計的関連性を示した。したがって、将来は良質な牛肉を生産する黒毛和種牛の改良に向けて、GH遺伝子多型の詳細な調節機構を検討する必要がある。
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