原始卵胞に含まれる卵(原始卵胞卵)は畜産領域において重要な遺伝資源である。これまで原始卵胞卵をヌードマウスに移植し卵を発育させ人為的に受精能を付与することに成功した。しかしヌードマウスの体内で発育したブタ卵は胚発生能が低く、卵の細胞質成熟が完全でないと推察された。そこで平成20年度では、ヌードマウスから回収したブタ卵に、ブタ体内で通常に発育した卵(細胞質の成熟度が高く個体発生能を有する)の細胞質を融合させて、胚発生能を高めることを試みた。 原始卵胞から構成される生後20日齢のブタ卵巣を細切しヌードマウスの腎皮膜下に移植した。マウスに浸透圧ポンプを用いてブタ卵胞刺激ホルモンを12日間持続的に投与し、原始卵胞を胞状卵胞にまで発育させた。移植卵組織から発育卵を回収し、体外培養系で第二減数分裂中期(MII期)まで成熟させた。別途、屠場から入手した通常の発育卵をMII期に成熟させた後、パーコールの濃度勾配溶液内で遠心することによって小片化した。核板を含まない細胞質小片を選び、上記のブタ原始卵胞由来の成熟卵に3個ずつ電気融合した(融合卵の作製)。融合卵に体外受精を行い、培養後7日目に胚への発生状況を観察した。 142個の融合卵を作製し、体外培養の結果21個が胚盤胞へと発生した(胚発生率14.8%)。胚盤胞の細胞数は10から128であった(平均細胞数;29.7±6.0(標準誤差)個)。無操作のブタ原始卵胞由来の成熟卵が体外受精・発生系では1%しか胚盤胞(平均細胞数20個)に到達し得なかった結果(Kaneko et al.2006)に比べて、屠場由来の成熟卵の細胞質小片を付与することによって、ブタ原始卵胞卵からの胚の発生率および質(細胞数)は格段に改善された。
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