レトロウイルス科レンチウイルス属に分類されるヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、人に致死的な後天性免疫不全症候群を引き起こし、人類にとって大きな脅威になっている。HIVはサルから人に感染し広まったエマージング感染症である。霊長類以外の動物にもレンチウイルスが存在し、獣医領域においては、馬、羊、山羊のレンチウイルス感染症が古くから問題になっていた。1986年には、家猫にも病原性のあるネコ免疫不全ウイルス(FIV)が感染していることが明らかとなり、小動物臨床上大きな問題になっている。さらに最近の研究により、レンチウイルスはサル以外の野生動物にも感染していることがわかってきた。例えば、ライオン、ピューマなどの食肉目動物もレンチウイルスをもっており、これらは病原性がなく、宿主と共存状態になっていると考えられている。本研究においては、動物由来レンチウイルス、特に食肉目由来レンチウイルスの感染機構を明らかにすることで、レンチウイルス属に共通する宿主域決定の分子機構を明らかにする。本年度は、ライオンレンチウイルスならびにピューマレンチウイルスのシュードタイプウイルスを作製するためのベクター構築を行った。我々が分離したFIV TM2株のGag-Pol遺伝子のコドン最適化を行い、pCNCベクターおよびpMXベクターをもとにしたパッケージングコンストラクトを作製した。また、FIVのパッケージングシグナルを含んだGFP蛋白をレポーターとするベクタープラスミドを3種類構築した。ライオン、ユキヒョウ、シロクマなどの大型野生動物の血液を旭山動物園より入手し、リンパ球分離ならびにリンパ球の長期培養を行った。これらの成果に基づき来年度は、大型野生動物のcDNAライブラリーの作製を行うとともに、ライオンレンチウイルスのプライマリーレセプターの遺伝子クローニングを行う。
|