研究課題
BSEやCJDなどのプリオン病では、構造異常を呈する異常型プリオンタンパク質(PrPSc)が正常型PrPCと相互作用し、その高次構造を異常型に変換させ、病態を引き起こすと考えられている。このPrPの構造変化機構には、酸性エンドソームが関与していると考えられている。本研究ではsite-directed spin labeling(SDSL)法を用い、αヘリックス1(H1)の裏側、βシート1(S1)とβシート2(S2)の3つのpH感受性領域をESRによる解析で見出した。近年、molecular dynamics(MD)simulationを用いた研究により、酸性pHが引き起こすPrPSc様のβ-sheet-rich構造への転換にアスパラギン酸177(D177)とヒスチジン186(H186)が重要な役割を持つと報告されたが、実際には実験的な証明はなされていない。本研究ではさらにD177とR163が形成する塩橋とH176とH186の2つのヒスチジン残基について、β-sheet2(S2)のpH感受性に対する影響をSDSL-ESR法で解析した。その結果、D177が形成する塩橋の形成がS2の中性付近でのβシート構造の維持に重要であることが明らかとなったが、近傍のH176の存在がこの構造安定性にも重要であることが見いだされた。また、H186のCJD変異についてはS2の構造安定化には寄与しておらず、βシート領域以外の別の構造変化がPrPScの形成の引き金となることが示唆された。以上の結果は、D178Nといったアミノ酸の突然変異で発症する遺伝性CJDやFFIは、S2の構造変化が引き金となりPrPScが形成されると考えられる。また、本研究では、シングルラベルしたプリオンタンバク質にパルスESR法を適応することにより、低pHあるいは塩酸グアニジンにより誘導されるプリオン凝集体で見られる距離情報を得ることが出来ることも見いだした。これは将来、他種類のシングルラベルしたプリオンタンパク質に適応することにより、異常型プリオンの構造情報を得ることが出来る方法として期待できるものである。
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