研究概要 |
今日,人類は新興再興感染症の脅威に晒されている。そのほとんどは人畜共通感染症である。本研究では,特に呼吸器侵襲性感染症に効果的な人体,あるいは動物用の新規療法の研究開発を目的とする。昨年度まで,多価ワクチンをにらんだインフルエンザベクターワクチンの開発のみならず,高病原性鳥インフルエンザウイルスのワクチン開発の緊急性に鑑み,その不活化ワクチン作製のためのシードウイルス候補株の構築に関する研究を実施した。その結果,ワクチンシードウイルスの製造母体である発育鶏卵での増殖性は,HA-NA機能バランスとウイルスゲノムの転写,複製を司るポリメラーゼ蛋白質の機能に依存すること,また,パンデミックが発生時に予想される発育鶏卵供給量の減少,停止に対応する培養細胞(MDCK細胞)を母体とする場合のウイルス増殖には,ポリメラーゼ蛋白質のPB2サブユニットと非構造蛋白質NS1が,ウイルスの増殖性を左右することを見出した。本年度は,その培養細胞増殖メカニズムを明らかにするために,各種レポーターアッセイ系を用いて解析したところ,PB2の360番目のアミノ酸がウイルスのMDCK細胞での増殖性を規定すること,また,NS1の55番目のアミノ酸がMDCK感染細胞に誘導されるインターフェロン活性を阻害し,その結果ウイルス増殖が高まることを発見した。これらの知見が今後の培養細胞における効果的なワクチン産生に大いに貢献することを期待する。
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