研究概要 |
ヘルペスウイルスは宿主特異性が高く,急性感染後,回復した宿主動物の神経系に潜伏感染する.しかし,何らかの原因で種の障壁を超え,固有宿主以外の動物に感染すると致死性の高い重篤な中枢神経系疾患を引き起こす.我々は,1993年に反芻動物であるトムソンガゼルの集団発生脳炎から新しいヘルペスウイルス(ガゼルヘルペスウイルス1型,GHV-1)を分離した.GHV-1はウマヘルペスウイルスに近縁であることから現在はウマヘルペス9型(EHV-9)と呼ばれる.EHV-9は動物種により致死性感染(ガゼル,ヤギ,イヌ,ネコ,マウス,ハムスター)および不顕性感染(ウマ,ウシ,ブタ)を引き起こす.この感染動物種による神経病原性発現の相違はサルBウイルスがヒトに感染した場合でもみられるが,そのメカニズムは明らかになっていない.我々はヘルペスウイルスの神経病原性発現機構を明らかにするためEHV-9に焦点を当て,解析を行ってきた.本研究ではEHV-9の致死性神経病原性発現に関わるウイルスタンパク質を網羅的な解析により同定し,ウイルス増殖における機能と動態を明らかにすることを目的とした.しかしながら,研究遂行によりプロテオミクス解析の限界が明らかとなったため,当初の計画に加え,比較ウイルス学的な解析ならびに個別の遺伝子解析を実施した.この追加実験にあたっては本研究の当初の対象であるEHV-9に加え,近縁なウイルスであるウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)を追加した.この2つのウイルスを対象として研究を遂行する事により,本来の目的であるヘルペスウイルスの神経病原性を支配する遺伝子ならびにその遺伝子がコードするタンパク質の機能解析を実施できた.
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