2004年1月、山口県の採卵養鶏場において、79年ぶりに高病原性鳥インフルエンザの国内発生が認められた。ついで2月には大分県と京都府で次々と本病の流行が報告され、とくに京都府の採卵養鶏場における発生では報告が大幅に遅れたために、1万羽を超える大流行となり、隣接する他の養鶏場への伝播、さらには汚染された可能性のある鶏肉・鶏卵が一部他県へも出荷されてしまう事態となって、大きな社会問題となった。この一連の事件で国民が食品に対して大きな不安を抱き、風評被害が拡がった最大の理由は鶏肉・鶏卵等関連食品中における本ウイルスの感染性あるいは物理化学的抵抗性に関する確実なデータがこれまでほとんど蓄積されてこなかったことによる。鶏が高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した場合、鶏肉や鶏卵中にどの程度のウイルスが残存し、それがどのような処理によって完全に除かれ得るのかなど具体的な実験成績が本病に対する国民の食の安全・安心問題には必要不可欠である。そこで本年度は一般的に用いられている消毒薬や一般家庭で用いられているアルコール系消毒剤を中心として、鳥インフルエンザウイルスに対する効果を調べた。 その結果、70%エタノールおよび70%イソプロパノールではわずか10秒でH5およびH9ウイルス(共に10^<4.8>EID_<50>/0.1m1)はいずれも検出感度以下にまで失活した。一般的な消毒薬、0.1%塩化ベンザルコニウム、0.5グルコン酸クロルヘキシジンおよび500倍希釈パコマについて同様に鳥インフルエンザウイルスに対する効果を調べた結果、いずれの消毒薬でも10分以内で検出感度以下にまで失活することが明らかとなった。 本研究で得られた成績は食品産業における鳥インフルエンザ対策のみならず、一般家庭で実施可能なインフルエンザの予防法としても有用な情報を提供するものである。 尚、本年度計画していた鶏感染実験についてはP3感染動物実験施設の完成が大幅に遅れたため、準備作業としてウイルス株の選定、および備蓄、感染実験手技の確立をするに止まり、次年度以降で実施することとなった。
|