大気汚染物質の一種の浮遊粒子状物質(Suspended particulate matter、以下SPM)には、ディーゼル排気粒子、鉄やカドミウムなどの金属元素、黄砂などが含まれる。SPMのうちでも、特に100ナノメートル以下の超微細粒子(ナノ粒子)は、空気血液関門Air-Blood-Barrierを突破し、血液循環系を介し、脳、免疫系、胎児を含めた生体組織全体へ移行することが示されている(ヒト、実験動物モデル)。しかし、その詳細(侵入機序、生体への影響、影響の発生機序)は不明なまま残されている。 本年度は、自然例および実験例を用いてSPMの生体への影響を詳細に解析する計画のうち、実験例のマウスの呼吸器および全身諸臓器・系の病理学的・生化学的解析を実施し、SPMのうち特にナノ粒子(カーボンブラック)のAir-Blood-Barrier突破機序、生体への影響、影響の発生機序を解明した。特に、疾患モデル(エンドトキシン前処置マウス)を用い、疾患罹患状態(風邪などの気道炎)にある動物個体へのSPMの影響を解析するため、リポポリサッカライドLPS曝露による疾患状態の肺(気道炎症モデル)におけるカーボンブラックナノ粒子の肺胞壁通過機序を電顕的に解析した。 その結果、疾患状態(急性気道炎症)では、肺胞壁の傷害に伴い健康状態に比べナノ粒子が通過しやすい状態であることが示された。
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