成体脳においても、海馬の歯状回では、どんなに歳をとっても神経細胞が日々生まれ続けている。この新生ニューロンは海馬回路に依存したある種の記憶課題の遂行に寄与していることが明らかにされつつある。新生ニューロンは、加齢と共に指数関数的に減少することがわかってきているが、学習行動などによりニューロン新生の程度が高まることが知られている。また、脳梗塞をはじめとした疾患によっても、ニューロン新生の程度が高まることが、げっ歯類を用いた動物モデル研究の結果から示されてきている。 そこで、本研究において、我々はカニクイザルの中大脳動脈閉塞モデルを用いて、ヒトを含めた霊長類においても、脳梗塞後にニューロン新生が増加するかどうかを調査した。脳梗塞の誘導後に脳機能が低下することが認められた。意識レベルについては、術後1ヶ月で、ほぼ回復した。この術後1ヶ月の時点で、解剖により脳を取り出し、ニューロン新生の程度を免疫組織染色により評価した。その結果、海馬におけるニューロン新生の程度が、およそ4倍に高まっていることが認められた。本研究により、霊長類においても、脳梗塞後に新生ニューロン数が顕著に増加することが確認された。 最近の米国からの報告によると、脳梗塞患者や認知症患者の脳内でも、海馬ニューロン新生の数が顕著に増加していることが認められている。増加した新生ニューロンにより、海馬回路が再生され、疾患で傷ついた脳回路の一部が修復されているものと考えられる。
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