メチルグリオキサール(MG)は解糖系から派生する代謝物である。しかしながらMGは、その反応性の高さからDNA、RNA、タンパク質などとin vitroでadductを形成することが報告されており、結果的に細胞機能に異常を引き起こすと考えられている。また、細胞内MGレベルの上昇は糖尿病やある種のがん(肺がんや大腸がん)などの疾患との関連が指摘されているが、そのメカニズムの詳細についてはほとんど明らかになっていない。その最大の理由は、MGの作用点とその作用機序がほとんど明らかにされていないことにある。私は、MGは単なる代謝中間体ではなく、シグナルイニシエーターとして細胞生理に対して積極的な役割を持ち、MGの代謝異常によって不必要、あるいは必要以上のシグナルが流れることで細胞機能が破綻し、種々の疾患が引き起こされるのではないかという作業仮説をたてている。そこで本研究解題では、高等真核生物のモデル系として確立されている酵母を用い、(1)MGが作用する標的分子の同定と(2)MGが引き起こす細胞応答機能の解明、ならびに(3)MGによる細胞機能障害の分子機序の解明を試みる。 平成17年度では、MGが分裂酵母のp38 MAPキナーゼホモログであるSpc1を活性化することを見いだしていたが、平成18年度ではMGの主要代謝酵素グリオキサラーゼ1が欠損した株では、MGによるSpc1のリン酸化状態が長時間継続することを見いだした。In vitroでの解析の結果、MGはSpc1を脱リン酸化するプロテインボスファターゼを阻害することで、Spc1のダウンレギュレーションを抑制していることを明らかにした。 また、昨年度、出芽酵母から単離したMG感受性変異株について解析を進めた結果、クラスリンをコードするCHC1やCLC1、PI3キナーゼをコードするVPS34、その制御因子VPS15等のメンブレントラフィックに関連する遺伝子の欠損株が多く取得されていた。そこで、MGとメンブレントラフィックとの関係について現在、解析を進めている。
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