本研究課題では、「細胞表面糖鎖を指標とする進化論的ならびに分化論的細胞分類」を目的とし、種々の分離分析手段を組み合わせた、細胞表面糖鎖の大規模解析技術を開発するとともに、培養癌細胞表面に分布する糖タンパク質糖鎖の定量的比較解析を行った。平成17年度はアフィニティークロマトグラフィーと順相分配型アミノカラムを用いるHPLCを組み合わせて、細胞表面の発現糖鎖プロファイリングを行う方法を開発し、糖鎖を指標とする細胞の系統的な分類法を検討した。その結果、細胞の発現糖鎖プロファイルを糖鎖の基本骨格構造とシアル酸ならびにフコース残基数に基づいて比較すると、細胞種によらず普遍的に存在する糖鎖と、細胞の個性解析に有用な特徴的糖鎖が存在することがわかった。また、ポリラクトサミン型の糖鎖や高フコシル化糖鎖など癌マーカーとなりうる糖鎖も発見できた。平成18年度はヒト由来低分化型胃癌細胞MKN45中に大量に蓄積する遊離糖鎖の構造解析と蓄積機構の解析を行った。解析の結果、MKN45中に蓄積する遊離糖鎖はNeuAcα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-3Manβ1-4GlcNAcの配列を持つ遊離糖鎖であり、その原因がリソソームにおけるシアリダーゼの活性異常あるいはリソソームの機能不全によると考えられた。平成19年度は平成18年度研究で明かにした、MKN45中の遊離糖鎖の蓄積機構の解析を行い、MKN45での遊離糖鎖の蓄積はリソソームシアリダーゼあるいはリソソームの機能異常が原因であることがわかった。開発した技術は、糖鎖を網羅的に定量解析できるという優れた特性を持ち、細胞・組織間における比較グライコミクスを実現する技術として、診断マーカーの開発や癌や難治性疾患の治療法開発に向けた新たな展開も期待できる。
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