研究概要 |
非競合的N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬のフェンシクリジン(PCP)を14日間連続投与し,休薬4日後に潜在学習の指標となる水探索試験を行った.PCPを連続投与したマウスの水探索時間はsaline連続投与マウスのそれと比較し有意に延長し,潜在学習障害が認められた.Saline連続投与マウスにおける前頭皮質リン酸化caMK IIは,水探索試験の試行により有意に増加していたが,PCP連続投与マウスでは,そのような増加は認められなかった.また,PCP連続投与マウスの前頭皮質ではNR1のリン酸化率の低下が認められることから,NMDA受容体機能低下が下流のシグナルであるCaMKIIのリン酸化に障害をもたらしたものと考えられる.一方,PCP連続投与により神経変性が惹起されることを見出している.そこで,その脆弱因子として細胞死において中心的役割を果たしているミトコンドリアのmitochondrial permeability transition(MPT)poreを形成しているcyclophilin Dに注目'し,本年度はcyclophilin Dの遺伝子欠損マウスの学習機能について検討を行った.cyclophilinDの遺伝子欠損マウスはモリス水迷路試験における参照記憶,恐怖条件付け学習課題における連合学習に障害が認められた.さらに,PCP連続投与マウスの認知機能障害の原因タンパク質の網羅的解析を行った.二次元電気泳動によりPCP連続投与マウスの前頭皮質に発現するタンパク質とsaline連続投与マウスとそれを比較し,異なる発現が認められたスポットの質量分析(LC-MS/MS)によりアミノ酸配列を予測し,タンパク質を同定した.現在,同定タンパク質とPCPにより惹起される認知機能障害に対する関連を検討している.
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