本研究の目的は、大腸菌複製開始蛋白質DnaAに関する我々自身の研究成果を活かしながら、真核生物の複製開始蛋白質ORCに関して、細胞周期に呼応した活性化・不活性化の分子機構を明らかにすることである。具体的には、(1)ORCのATP/ADP結合、及びATPase活性を調節する因子の検索、(2)ATPase活性を持たない変異ORCを発現する酵母変異株の作成とその解析、(3)ORCと膜リン脂質との相互作用が細胞内DNA複製において果たす役割の解明、(4)細胞内でORCに結合しているアデニンヌクレオチドを同定する方法の確立、以上の4つの研究を行う予定である。(1)ORCのATP/ADP結合、及びATPase活性を調節する因子の検索に関しては、酵母2ハイブリッド法を用いて多くのORCと相互作用する因子を発見し、その後の生化学的解析により、ORCのATP/ADP結合を促進因子を同定した。(2)ATPase活性を持たない変異ORCを発現する酵母変異株の作成とその解析に関しては、ATPase活性を持たない変異ORCを精製し、それがATPase活性のみが特異的に減弱していること、及びこの変異ORCを発現する酵母変異株を作成し、それがpre-RC形成を行えないことを見出した。(3)ORCと膜リン脂質との相互作用が細胞内DNA複製において果たす役割の解明に関しては、酵母核膜中に存在するリン脂質によりATP/ADP結合活性は阻害されるが、ATPase活性は影響を受けないことを見出し、一方部位特異的変異導入法により、膜リン脂質との相互作用に必要なORCのアミノ酸残基の同定に成功した。(4)細胞内でORCに結合しているアデニンヌクレオチドを同定する方法の確立に関しては、アッセイ条件の検討を行った。
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