初年度において、先ず、高病原性トリインフルエンザウイルスとヒト間で流行しているインフルエンザウイルスの間でそれらの受容体シアロ糖鎖認識特異性が大きく異なることを見出した。すなわちトリおよびヒトインフルエンザウイルスはいずれもシアリルラクトサミン構造を認識・結合するがトリウイルスはシアル酸2・3ガラクトース(Gal)配列を、ヒトウイルスはシアル酸2-6Galを強く認識し結合した。それを基に、高病原性トリインフルエンザウイルスがヒト-ヒト間伝播を始める変異を簡便、高感度かっ迅速に測定する方法を考案した。これを利用してベトナムで兄から感染し、予防的にタミフルを投与された妹から分離された高病原性トリインフルエンザウイルスを調べた結果、分離クローンの一部は、タミフル抵抗性となっていること、さらに、受容体認識特異性がヒト受容体へより親和性が高く変異していることを見出した。また、中国福建省の少年から2003年に分離された高病原性トリインフルエンザウイルスも同様にヒトへの感染を可能とする変異がレセプター認識レベルで起こっていることを明らかにした。本法は、今後、高病原性トリインフルエンザウイルスがヒト-ヒト間流行を始める変異を監視する上で有用であり、新型パンデミック株出現サーベイランスに極めて有効であると考えられた。そこで、高病原性トリインフルエンザウイルスにより死者も出ているタイ国立マヒドン大学、タイ国立家畜衛生研究所およびタイ国立カセサート大学から各々1名の研究者を各々3ヶ月間ほど招聘し、本技術を習得させ、タイ国において高病原性トリインフルエンザウイルスのヒト型への変異を監視するシステムを稼働させる準備を行った。次年度でこれを稼働し、WHOなどへ働きかけ、変異の機構、本監視システムのグローバル化、新型インフルエンザウイルス流行(パンデミック)阻止を目指す。
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