癌遺伝子産物Rasはファルネシルトランスフェラーゼが触媒するファルネシル化を受けて初めて機能する。ファルネシルトランスフェラーゼの活性中心には亜鉛が存在し、ファルネシルトランスフェラーゼの活性に重要な働きをしている。よって亜鉛と結合する化合物は、適切な分子設計を施すことにより、ファルネシルトランスフェラーゼを分子標的とした抗癌剤になりうると考えられる。現在までに報告されているファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤の多くはCAAXボックスまたはファルネシル基供与体であるファルネシルピロリン酸を基本構造としたアナログであり、亜鉛と結合する化合物は、これらのファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤とは全く異なる機構によりファルネシルトランスフェラーゼを阻害することができると思われる。本年度の研究は亜鉛キレーターにファルネシルトランスフェラーゼ親和性部位を導入するという分子設計により、新たな阻害剤を創製することを目的としている。 研究代表者らは、ピリジン環2位と6位にシステアミンを導入した亜鉛キレート部位、ピリジン環4位に酵素親和性部位としてアリール基をもつ化合物を合成し、それらが亜鉛結合能、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害活性を持つことを見出した。しかしながら、これらの化合物では酵素選択性において改善すべき点が考えられる。そこで、酵素親和性部位としてファルネシルリン酸を導入した化合物をデザインした。ファルネシル基の不安定性を考慮して、まずキレート部分をピリジン環4位にアミノ基を導入した状態で合成した。その後4位アミノ基とリンアミドを形成させることによりファルネシルリン酸を導入することができた。
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