研究概要 |
化学物質が誘発するヒトにおける胎児毒性を予測するヒト型モデル動物を開発することは医薬品の開発段階における催奇形性や環境中に含まれる化学物質の毒性評価および化学物質によって誘導される胎児毒性の発現機構の解明に非常に有用となると考えられる.申請者らはヒト胎児に発現する4種のCYP分子種(CYP1A1,CYP1B1,CYP2E1,CYP3A7)および胎児の奇形発生に関与するといわれている2種のプロスタグランジン合成酵素(COX-1,COX-2)遺伝子を2〜5種類を同時に発現するTgマウスを樹立した.そこで本研究ではヒト胎児に発現する酵素群を発現するTgマウス,すなわち本Tgマウスのヒト型モデル動物としての有用性を評価し,化学物質が誘発する胎児毒性の分子機構を解明することを目的とした.野生型マウスおよびヒトCYP1A1,CYP1B1およびCYP3A7それぞれを単独で発現するTgマウスの胎生11.5日の胎仔を摘出し,サリドマイド(500μg/ml)存在下,非存在下で24時間,胎仔全培養を行った.胎仔を培養した後,胎仔の形態を観察し,奇形の有無を評価した.胎仔全培養の結果,ヒトP450遺伝子を持たない野生型マウスではサリドマイドによる奇形は誘発されなかった.またヒトCYP1A1およびCYP1B1を発現するTgマウスでは野生型と同様,サリドマイドによって奇形は誘発されなかった.一方で,ヒトCYP3A7を発現するTgマウスではサリドマイド処置によって四肢に奇形が誘発された.このTgマウスにおいてサリドマイドによって誘発される奇形の頻度は57%であった.サリドマイドによる四肢に誘発される奇形がヒトCYP3A7を発現するTgマウスを用いることで再現できた.このことから,サリドマイドが誘発するアザラシ症等の奇形発生にはヒト胎児で発現するCYP3A7が関与することが考えられた.
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