研究概要 |
本研究ではヒト特異的に肝障害を誘発させるモデル化合物として前立腺癌治療薬のflutamideを用い、実験動物モデルを作製し、flutamideの肝障害誘発の機序を代謝の面から解析した。C57BL/6雄性マウスにflutamideあるいはflutamideの主代謝物である4-nitro-3-(trifluoromethyl)phenylamine (FLU-1)を5日間200mg/kgで経口投与し、核内受容体constitutive androstane receptor (CAR)のアゴニストである1,4-bis[2-(3,5-dichloropyridyloxy)]benzene(TCPOBOP)を1日目から3日間3mg/kg腹腔内投与して、後半の2日間絶食をさせる実験モデルで肝障害について検討した。FLU-1とTCPOBOP併用群においてalanine aminotransferase (ALT)活性の上昇が認められ肝障害モデルが作成された。FlutamideとTCPOBOPの併用群を含む他の群では有意なALT活性の上昇は認められなかった。FLU-1とTCPOBOP併用によりマウス肝障害モデルが作製されたので、これを用いてflutamideによる肝障害の機序をflutamideの代謝の面から解析した。まずHPLCによるflutamide代謝物を分離定量出来る分析系を確立した。さらにflutamideの代謝物であるFLU-1-N-OHに細胞毒性があることが見出されているため、ヒトとマウスの肝臓ミクロゾームを用いて、flutamideからFLU-1、あるいはFLU-1からFLU-1-N-OH体への代謝活性を比較した。FlutamideからFLU-1への代謝活性には両者で差異は認められなかったが、FLU-1の代謝において違いが認められた。ヒト肝ミクロゾームではFLU-1 N-OH化活性が認められた(0.2〜0.6nmol/mg protein/min)のに対し、マウス肝ミクロゾームではこの活性は検出限界(0.055nmol/mg protein/min)以下だった。さらに肝障害が認められたマウスFLU-1/TCPOBOP併用群と肝障害が認められなかったFLU-1投与群から肝ミクロゾームを調製し、FLU-1 N-水酸化活性を比較した。コントロール群では検出限界以下だったFLU-1 N-水酸化活性が、両者で認められ(FLU-1群:0.031±0.003nmol/mg protein/min, FLU-1/TCPOBOP群:0.040±0.004nmol/mg protein/min)、さらに両者で有意な差異は認められなかった。以上の結果より、FLU-1 N-水酸化だけではなくN-水酸化に続く代謝活性化を受けて、flutamideの肝障害が誘発している可能性が考えられた。これらの結果から核内受容体シグナルの種差を考慮して実験を行うことで、ヒト肝誘導のモデルを作成する手法の手掛かりが得られた。
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