難治性でしかも将来的な患者数の増大が懸念される疾患として乳癌がある。乳癌の6割以上はエストロゲン感受性の増殖を示すと考えられているために、乳癌ホルモン療法として現在エストロゲン受容体拮抗薬とアロマターゼ阻害薬が使用されている。しかし、がん治療においては、癌細胞の耐性化や多様性を考慮する必要があり、そのために治療標的は多彩であることが望まれる。本研究では、特に乳癌の発生が増大する閉経後の女性において、血中に高濃度に存在するエストロゲン前駆体の抱合型エストロゲンのエストロン-3-硫酸(ES)乳癌細胞内に移行する過程に働くトランスポーターが必須であるという観点から、新たな乳癌ホルモン療法標的としての分子同定を目的とした。 乳癌モデル細胞としてT47D細胞ならびにMCF7細胞を用いた検討によって、細胞外に添加したESはトランスポーターを介して細胞内に取り込まれた。また、ES依存性のER活性ならびにMCF7細胞の増殖活性は増大し、取り込み阻害剤はそれらの活性を選択的に低下させた。そこで、ES輸送に働くトランスポーター分子の実態を明らかにすることで、強力な阻害剤の探索につながると考え、責任トランスポーター分子の同定を試みた。そのアプローチとして、ESの輸送活性が異なる細胞間で、網羅的な遺伝子の発現量をDNAマイクロアレイによって解析した。マイクロアレイによる遺伝子の発現量と輸送活性の相関性、ESの輸送親和性、及び阻害剤選択性から有機アニオントランスポーターであるOATP1B3遺伝子に着目した。OATP1B3の寄与率は選択的期質を用いた解析により試験したところ、10%程度であった。以上の検討では、E_13S取り込み活性と責任トランスポーターについて分子のmRNA発現量が相関することを仮定し検討を進めたが、今後はさらに発現が検出されたトランスポーターについても検討を行い、本研究を展開する必要がある。
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