GFPをオレキシン神経特異的に発現するトランスジェニックマウスを用いて、スライス標本を作製し、蛍光顕微鏡観察下でパッチクランプを行うことにより、オレキシン神経の電気生理学的な性質と、様々な生理活性物質に対する応答をモニターした。この系に様々な阻害薬を添加し、レプチンによるオレキシン神経の抑制機序を解析した。パッチクランプ実験により、オレキシン神経の100%(n=29)はレプチンによって抑制された。この作用は、逆転電位からK^+チャネルの活性化を介していることが示唆された。また、この作用はK-ATPチャネル開口剤(トルブタミド)、JAK2の阻害剤(AG490)、PI3K阻害剤(Ly294002)、によってそれぞれ完全に阻害されることが明らかになった。さらに、STAT3のconditional knockoutマウスにおいても、レプチンによるオレキシン神経の抑制は観察された。したがって、レプチンはJAK2の活性化、PI3Kの活性化、K-ATPチャネルの開口を介してオレキシン神経を抑制し、この作用にはSTAT3を必要としないということが明らかになった。これらの機構は、CNTF、IL-6やTNFαにおいても同様であった。 これらの事から、レプチン、CNTF、IL-6やTNFαによるオレキシン神経の抑制にPI3キナーゼとK-ATPチャネルの活性化が関与することが明らかになった。また、この系にはSTAT3は必要がないことがわかった。これまで、サイトカインによる神経細胞の調節機構はほとんど解明されていなかった。今回明らかになった機構がオレキシン神経だけではなく、他の神経細胞でも使われている機構であるならば、レプチンなどのサイトカインによる神経細胞の調節機構として大変重要である可能性がある。
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