研究概要 |
以前の研究で,蛍光単分子スペックル顕微鏡を用い,Formin蛋白質の1つ,mDialが生細胞内のアクチン重合端に結合し,線維伸長に従って分子移動することを発見した(Science 303:2007-10,2004).この分子移動は,mDialの活性中心であるFH1-FH2領域の部分変異体では恒常的に観察されるものの,野生型mDialの分子観察では頻度は稀であった. 本研究では,野生型mDialが高頻度に分子移動を開始する条件を検索した.予想外にも,Latrunculin BやSwinholide Aといった単量体アクチン阻害剤が低濃度で迅速(10秒以内)にmDialを活性化し,分子移動を誘発することを見出した.重合しないアクチン変異体の発現でも同様のmDialの活性化現象が惹起されることから,Gアクチン濃度の上昇がmDialによるアクチン重合-伸長を誘発することが確認された.mDialの活性化にはRhoの活性は必要とするものの,FH2領域だけの部分変異体でも上記薬剤による活性化が観察された.また,アクチン脱重合因子コフィリンやその結合タンパク質AIP1が集中する部位,すなわち脱重合によってアクチン単量体が多量に放出される部位に一致して,mDialFH2によるアクチン核化頻度が上昇した. 本発見は,単量体アクチンが上昇すると,mDialのFH2領域が感知し,高効率にアクチン重合核形成を引き起こすことを示唆する.このような微細なシグナル変化は,分子イメージングによる直接観察なしに捕捉困難である.mDialはアクチン伸長速度を5-15倍加速し,細胞内で毎秒2マイクロンの高速でアクチンを伸長させるユニークな性質を持つ.真核細胞は直径が10〜数十ミクロンに達するため,崩壊したアクチン骨格を急速に回復させる仕組みが要求されるが,今回われわれが見出したmDialを介した急性アクチン重合機構はそのような状況に働く分子機構である可能性がある(投稿中).
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