研究概要 |
1,ホスホリパーゼCε(PLCε)ノックアウトマウスの皮膚では、ホルボールエステル(TPA)刺激に対する浮腫を伴う炎症応答や好中球浸潤が野生型マウスと比べ著しく抑制されていた。ノックアウトマウスのケラチノサイトと真皮線維芽細胞においてTPAで誘導されるインターロイキン1α等の炎症性サイトカインの発現低下が見られた。また、TPA刺激がRasGRP3を介するRap1の活性化によりPLCεを活性化することを示した。更に、マウスを用いた他の炎症誘導実験系(潰瘍性大腸炎モデル、接触性皮膚炎モデル、紫外線誘発皮膚炎モデル)においても、PLCεノックアウトマウスにおいて炎症反応の著明な抑制が認められた。これらの結果から、PLCεが炎症性サイトカインの発現誘導を介して炎症応答に広く関与することが示された。 2,PLCεノックアウトマウスでは、APC遺伝子の変異を持つMinマウスの腸の腺腫発生数の減少とその悪性化の顕著な抑制が認められた。この結果は、以前発表したPLCεノックアウトによる二段階皮膚化学発癌の顕著な抑制効果とともに、炎症反応と発癌のプロモーションとの密接な関係を示唆する点で非常に興味深い。 3,Cre-loxP系を用いてPLCεを皮膚角質細胞特異的に過剰発現するトランスジェニックマウスを作製した。このマウスでは、角化の著しい亢進を伴う過剰な炎症反応と血管新生の亢進が観察された。以上の1〜3の結果は、PLCε腫瘍発生を予防する薬剤や抗炎症薬の開発の格好の分子標的となることを示した。 4,PLCεノックアウトマウスが、胎生期に心臓半月弁形成異常を発生する機構を解析し、ヘパリン結合性EGF(HB-EGF)の受容体(EGF受容体)下流で半月弁細胞増殖を誘導する骨形成因子受容体下流のシグナル分子Smad1/5/8の燐酸化の抑制を介して、半月弁細胞の増殖抑制に関わることを示唆した。
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