研究概要 |
本研究計画の主題は,ヘムによる遺伝子発現制御機構とその生理的意義の理解である。そのために,ヘム結合性転写因子Bach1に注目し,酸素応答性遺伝子発現とヘムによる制御機構を解明することを目的とする。本年度は,以下の実験を主に行った。野性型およびBach1ノックアウトマウス由来の線維芽細胞を,21%あるいは3%酸素下で培養し,RNAをそれぞれ調製した。定法に従いプローブを作成し,アフィメトリックス社のオリゴDNAマイクロアレイを用いて発現プロファイリングを行った。現在までに221%酸素下で発現に差がある遺伝子セットを見出しているので,今後は3%酸素下では発現差が解消する遺伝子を探していく。各候補遺伝子のリアルタイムRT-PCR解析の条件も確立した。並行して,ヘムによるBach1分解の制御機構についても研究を進めた。HOIL-1は岩井(大阪市立大)らにより発見された新規ユビキチン化E3リガーゼであり,興味深いことにヘム結合IRP-2を特異的に認識しそのユビキチン化修飾を行う。この事実に着目し,岩井らの協力を得てHOIL-1がBach1のユビキチン化におよぼす影響を検討した。精製蛋白質を用いて試験管内ユビキチン化を行ったところ,HOIL-1がBach1のE3リガーゼとして作用することを確認した。そこで,Bach1の様々な欠失断片とHOIL-1を培養細胞で発現し,免疫沈降法を用いてHOIL-1結合部位を同定した。しかし,予想外なことにHOIL-1結合部位を欠くBach1は,全長Bach1と同様にヘム濃度上昇により分解された。この結果から,Bach1には他にもヘム応答性分解に関わる領域があると結論された。現在,この領域を同定するとともに,この領域に作用するE3リガーゼの探索を行っている。
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