大脳の新皮質の層形成過程において中心的な役割を果たすCajal-Retzius細胞は、従来、新皮質原基そのものに発生すると考えられてきた。しかしながら、最近の我々の研究成果によりCajal-Retzius細胞には幾つかのサブタイプが存在すること、そして、少なくともそのサブタイプの主要なものは、皮質GABA作動性介在ニューロンの場合と同様に新皮質外の局所的な細胞集団(coritcal hemと呼ばれる皮質形成のシグナリングセンター)から発生し、新皮質内に接線方向に細胞移動し広く新皮質を覆うことなどが明らかにされた(Takiguchi-Hayashi et al.2004)。新皮質構築そのものを調節しうるCajal-Retzius細胞が新皮質にとって外来性の細胞であることは、新皮質形成機構を考える上で新しい視点を与える。なぜ、大脳皮質のような大きな組織において包括的な領域形成が成し遂げられるのかといった神経生物学上の重要な問題に対する非常にインパクトのある答えは、脊髄をはじめとする他の中枢神経系に見られるようにシグナリングセンターからシグナリング蛋白質が単純拡散をする様式ではなく、細胞自身がそのシグナリングセンターから細胞移動することで、そのシグナリング蛋白質の運び屋となるといった仮説である。この仮説を細胞レベルで検証するために、Cajal-Retzius細胞の細胞移動をdominant-negative Rac1を導入することで抑制したところ、皮質外側領域に優位に領域拡大が認められた。一方、最近の他のグループからの研究成果によると皮質腹側のventral palliumから発生してくるCajal-Retzius細胞を選択的に除去すると皮質外側領域に優位に領域減少が認められる。両者において皮質層形成には変化が認められていない。これらの結果は、Cajal-Retius細胞の個々のサブタイプは皮質層形成においては共通の働きを示すが、皮質領域形成においてはサブタイプにより異なる作用を示す可能性を示唆する結果である。
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